ケース11 「悪足掻(ごね)る男 - 婚約破棄・・・慰謝料を払う必要は?」
「結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ。」
という言葉がある。
これは、イギリスの神学者トーマス・フラーの言葉である。
これは、結婚の決断には長所も短所もよく見て判断し、結婚後には長所をよく見て、短所は大目に見るということである。
至極名言ではあるが、実践がなかなか難しい。
「恋は盲目」「あばたもえくぼ」という。
人は皆、恋をすると両目を閉じるようである(筆者だけ?)。
男は、質素な現実生活をひた隠し、持ち合わせのない金を工面し、グルメな高級店で食事し、プレゼントはできる限りゴージャスに。
女は家庭的で甲斐甲斐しい女性を演じ、優しく、時には弱々しく、男の本能をくすぐる事も。
とかく男女は、無意識に化かしあいを演じ、両目を開けたつもりでも、盲目になっている事が多いようである(筆者だけ?いやいやこれを読んで大きく頷いている皆さんも。)。
金梨君がいた。
彼は、好青年ではあるが、どうも見栄っ張り浪費家のようである。
その金梨君が賢子に恋をした。
金梨君は賢子とのデートはミシュラン二ツ星以上の高級グルメ店をチョイス、プレゼントはクレジットでティファニーの高級アクセサリー。
しかし、金梨君にこのようなお金があるわけもなく、クレジットカードとキャッシングに頼らざるを得なかった。
二人の交際は深まり、やがて双方の両親を紹介して結納するに到った。
ある日、賢子が金梨君の部屋に遊びに行くと、金梨君宛の郵便物があり、賢子がそっとのぞき見ると、消費者金融やクレジット会社からの督促状であった。
驚いた賢子が金梨君を問いつめると、金梨君は借金の事実を明らかにした。
しかも、浪費家の金梨君には賢子と付き合う前から多額の借金があったことが判明した。
賢子は、金梨君との将来の婚姻生活に不安を感じ、迷いはあったが、婚約を破棄した。
金梨君は、交際前からの借金もあるが、賢子とのデート代にも使っているのだから、納得いかない。
婚約破棄は認めない。
どうしても破棄するなら、慰謝料を払えと請求してきた。
果たして、賢子は慰謝料を払わなければならないのであろうか?
金梨君の慰謝料請求は認められない
判例は、婚姻関係にない男女でも、婚約の段階に至った場合には、正当の理由がない婚約破棄に関して、慰謝料を認めている。
問題は、婚約が成立したといえるかどうかであるが、個別具体的に検討する他はなく、当事者の婚姻の合意という主観的事情の他にある程度の客観性・公示性が必要と解されている。
本件においては、当事者が婚姻の意思を有し、結納という客観的事実も認められることから、婚約は成立していると考えられる。
次に正当理由の有無であるが、本件のように浪費・借金の存在が明らかな場合は、社会通念上将来の婚姻を望まないと考えられ、正当理由があると考えることができる。
従って、金梨君の慰謝料請求は認められないと解される。
両目をしっかり開いて婚約破棄の判断をした賢子は、正に賢明であった。
なお、結婚後は片目を閉じるということだが、片目では足りず両目を閉じる必要のある夫婦が存在するかは定かではない。
筆者の身近にいそうな気もするが・・・。

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