ケース2 「間違われた男 - 誤配されたビールを飲んでしまったら・・・」
夏真っ盛りである。
お中元の季節がやってきた。
お中元とは、7月初旬から中旬にかけて、お世話になった人に贈る贈り物である。
お中元の「中元」は、道教の習俗「三元(上元、中元、下元)」の一つで陰暦7月15日である。
道教では中元を人間贖罪の日として、一日中火を焚いて神を祭るお祭りが行われていた。
これが仏教の「盂蘭盆会」と混同され、お中元は祖先の霊を供養する日となった。
江戸時代以降、お中元に知人や親類が往来し、盆の礼として贈り物をする風習が生まれ、お世話になった人に贈り物をする習慣に変化していった。
・・・さて、書ききれなくなるので、講釈はこの程度にして本題に。
高層大規模マンションの同じフロアーに、読みが同姓同名の人物がいた。
一人は安倍晋一、他方は安部晋一という。
うっかりものの宅配業者が、安倍君宛のお中元を間違えて安部君に届けてしまった。
これまたうっかりものの安部君も送り主を確認をすることなく受け取った。
お中元品はビールであり、猛暑の中、安部君はあっという間に痛飲してしまったことはいうまでもないw
後日、宅配業者が誤配に気づき、申し訳なさそうにビールの返還を求めてきた。
安部君は、間違って配達されたことを知らなかったのであるが、返還しなければならないのだろうか?
安部君は、法律上の原因なくして他人の財産により利益を受け、他人に損害を与えたと考えられるので、法律上、不当利得返還請求権が問題となる。
安部君は、間違って配達されたことを知らなかったのであるから「善意」であり、返還の範囲は現に利益の損する限度に限られる(民法第703条)。
利益が現存するとは、利得がそのままあるいは形を変じて残っていることをいう。
安部君は、誤配されたビールを飲みきってしまったのであるから、一見利益が残っていないようにも思えるが、誤配されたビールを消費したことにより、それに相当する自分の生活費(ビール代)が消費されずにすんだのであるから利得は現存しているといえるのである。
従って、安部君はビールの価格を金銭で返還すべきことになる。
・・・以後、安部君が配達物の受取人欄の名前を注意深く見るようになったことはいうまでもない。

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