ケース8 「迫られる男 - 一方的に家賃を増額!応じる必要は!?」
未曾有の大不況である。
社会は不況に喘ぎ、景気好転の兆しも見えない。
木枯らし吹きすさぶ冬のさなか、リストラの嵐も吹き荒れている・・・。
A君もリストラの嵐に吹き飛ばされた一人である。
コツコツと真面目に働く事が取り柄であったA君であるが、不況の直撃を受け、リストラの憂き目にあってしまった。
そんなA君のもとにある日、一通の内容証明郵便が届いた。
開封してみると、大家からの家賃増額請求である。
「現在の家賃は低いので、来月から家賃を増額します。
支払わない場合は退去してもらいます。」
という内容である。
職を失い途方に暮れていたA君にとって、増額された家賃は到底支払うこともできず、かといって、支払わなければアパートを追い出されてしまうのではないか、A君の不安は増大するばかりであった・・・。
困惑したA君が不動産情報を調べたところ、A君の家賃は安いわけではなく、付近の家賃相場と変わらないものであった。
そこで、A君は大家宅に赴き、従来どおりの家賃を支払おうとしたが、大家に受け取りを拒絶されてしまった。
A君は、一方的な家賃の増額に応じなければ、アパ-トを退去しなければならいのであろうか?
A君に良いアドバイスを。
客観的に現状の家賃が不相当でない限り、A君は増額に応じる必要はなく、現状の家賃を払っていれば、債務不履行となることもなく、退去する必要もありません。
借地借家法32条1項は、
「一定期間賃料を増額しない旨の特約がない限り、租税その他の負担の増減により、不動産価格の上昇・低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の賃料に比較して不相当になった場合には、賃料の増額を請求できる」
と規定していますが、
同2項は、
「増額につき当事者間の協議が調わない時は、増額を正当とする裁判確定までは、賃借人は相当と認める額の賃料を支払えば足りる」
と規定しています。
従って、A君は従来の賃料を支払えば足りるのですが、家賃増額請求訴訟において、家賃増額を正当とする判決が確定した場合には、これまでに支払った賃料との差額に年1割の利息を付けて支払わなければなりません。
なお、本件のように、賃貸人が家賃の受け取りを拒否している場合には、債務不履行を免れるためにも、A君は、法務局に供託をする必要があるので、注意を要します。
・・・A君が落ち着いた正月を迎えることができるよう願う次第である。

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