「働き方改革関連法案」の審議の中で、「裁量労働制で働く労働者は、一般の労働者よりも労働時間が短い」という趣旨の首相答弁が話題になっています。この答弁は、本来比較できないデータを単純に比べていた不適切なものだったようですが、実際問題として、裁量労働制を拡大することが長時間労働の是正につながるのでしょうか。
裁量労働制とは、例えば、1日のみなし労働時間を10時間、月給を残業代込みで30万円と決めれば、実際に何時間働いたかにかかわらず労働時間が10時間とみなされ、月給30万円を支払えばよいという制度です。1日の実際の労働時間が4時間であっても、10時間であっても、15時間であっても、労働者に支払われる賃金は一定になります。
裁量労働制は、労働者に業務遂行の方法や出勤・退勤時間を自由に決められる裁量があることを要件とする制度ですが、現実にはそのような職場は多くありません。周囲の同僚が長時間労働をしている中で、自分だけ「私は4時間で帰ります。」と主張できる労働者がどれだけいるでしょうか。
また、経営者にとっては、10時間働いてもらっても、15時間働いてもらっても、同じ額の賃金を支払えばよいことになります。そうすると、経営者からすれば、同じ賃金を払うだけでよいなら、長時間働いてもらった方が得だということにならないでしょうか。少なくとも、私が経営者ならそう考えます。
毎日新聞の2月24日、25日の世論調査では、裁量労働制について、「対象拡大に反対」と回答した有権者は57%で、「対象拡大に賛成」の18%を大きく上回っています。多くの国民は、裁量労働制が長時間労働を招く危険があることを見抜いているようです。
なお、法律相談をしていると、裁量労働制で労働契約をしているにもかかわらず、上司からメール等で個別具体的に業務指示がなされ、業務遂行上の裁量権がないケースが多くあります。業務遂行上の裁量権がなかったり、出勤・退勤時間を事実上自由に決められないような場合は、裁量労働制の定めは無効となり、残業代を請求できる可能性があります。心当たりのある方は、一度専門家に相談してみてもよいかもしれません。
弁護士 小内克浩