平成29年10月26日,東京高等裁判所第8民事部は,さいたま市パワハラ自死損害賠償請求控訴事件について,第一審さいたま地裁判決を超える賠償をさいたま市に命じる判決を言い渡しました。
自殺した職員に対する先輩からの暴力や暴言などのパワーハラスメント行為があったことを改めて認め,さいたま市の安全配慮義務違反も認定しました。
高裁判決は,通常地裁判決を部分毎に変更する形で出されますが,本判決は,全て書き直す形で,地裁判決での事実認定を一つ一つ吟味して,改めて証拠を引用した上で,さいたま市の主張も排斥して,上記の事実を認定してくれました。
更に,安全配慮義務違反について,「精神疾患により休業した職員に対し,その特性を十分理解した上で,病気休業中の配慮,職場復帰の判断,職場復帰の支援,職場復帰後のフォローアップを行う義務が含まれる」とし,
安全配慮義務のひとつである職場環境調整義務として,「良好な職場環境を保持するため,職場におけるパワハラ,すなわち,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景として,業務の適正な範囲を超えて,精神的,身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為を防止する義務を負い,パワハラの訴えがあったときには,その事実関係を調査し,調査の結果に基づき,加害者に対する指導,配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負う」と判示しました。
本件事案のように,精神疾患の既往歴のある方やパワハラを訴えている方にとって,使用者側の安全配慮義務違反を認めさせる重要な先例的意義を有する中身となっています。
遺族の方は,6年間も家族の死という悲しみを抱えながら戦ってきました。
さいたま市だけでなく,全ての企業・行政において,本判決に鑑みて,適切な措置をとり,同様の悲しい事件を起こさないようにして頂きたいと思います。
(弁護士 金子直樹)