県内で奨学金問題に取り組む法律家、教員、市民らが昨年立ち上げた「埼玉奨学金問題ネットワーク」の1周年シンポジウムが11/30に市民会館さいたまにて開催されました。
基調講演では大内裕和中京大学教授による非常に熱く、重要な指摘を持った講演がありました。
講演を聞き、奨学金問題は単なる教育分野や学生個人だけの問題ではなく、現代日本が抱える貧困格差問題、労働問題も含む広大かつ深刻な問題であることを改めて感じました。
これまで奨学金というと、家庭の経済状況が厳しいことや、成績優秀な学生が対象という見方でしたが、今や学生の2人に1人が利用している状況です。
大内教授によれば、最近マスコミなどでも奨学金問題が取り上げられ始めたことは、日本全体で相当数の国民がこの問題に関わっていること、それが中間層と呼ばれる国民の欠落が原因であることにマスコミが気づき始め、見過ごせない問題となってきたためではないかと指摘されていました。
高齢の方などは昔のイメージで、お金がない学生は国立大学に行けばいいと考える方も多いと思いますが、国立大学は入学金約28万2000円、授業料53万5800円の計81万7800円(2010年)となっており、国立大学イコール安いという図式はもはや成立しません。
また、地方からの学生が首都圏の学校に入学することも世帯収入が激減している中で、教育費の上昇ということが重なり、今では国立か私立かということより、自宅から通えるかどうかが大きな進路選択基準になっています。
このような状況において、奨学金受給者の割合は、2010年から5割を超えています。
奨学金の返済をみると、正規雇用が困難な時代となり、収入の不安定化が滞納者を急増させています。
大内教授の指摘としては、このような社会状況で、奨学金はすでにその機能を果たしておらず、その理由としては、適格者が無利子奨学金を受けられない、返還の困難さ、それにより利用をためらい、アルバイト漬けの学生生活に結びつくということでした。
過剰なアルバイトはいわゆる「ブラックバイト」の問題を生み、今や大学は「ワーキングプアランド」化しているとの指摘でした。
また、若者達は不安定な収入状態で、返済によって将来も考えられず、結婚、子育てなどとてもできる状況ではありません。
講演では、結婚相手が奨学金を返済しているため、結婚が破談したなどという例も話されていました。
相談したくても、返せない自分が悪いという思いから、ネットワークへの相談も少ないということでした。
先進諸外国の中でも日本の進学率は決して高くないそうです。教育費の高額化も一因です。
国際化を謳うならばこのような高等教育状況は、日本にとってマイナスであることは明白です。
この貸与型奨学金制度は現在の日本社会情勢にはすでに適合していない制度であり、大幅な給付型奨学金の採用や、教育にかかる費用は過大な個人負担ではなく、国の負担で行うという思想に改める時期に来ているのではないでしょうか。
また、わずか数年で全国の奨学金問題に対する取り組みの成果が出てきているそうです。
たとえば、返還猶予期間を10年に延長、機関保証料引き下げなど、十分な解決ではありませんが、徐々に現行奨学金問題が明るみに出て改善策が実施されてきています。
この問題は多くの人達が直面していることであり、このことはこれからの取り組みによっては多数の国民的な運動に結びつく可能性があることも大内教授は指摘されていました。
とにかく、一人でも多くの人々(当事者、その親以外にも)に問題を知ってもらう活動として、Facebook、ツイッター、ブログの利用で奨学金問題を拡げていく、各地で奨学金問題のネットワークを作っていくことなど、挙げられていました。
国民の声を実践する政治家も必要です。衆議院選挙始まっています。
この問題に対してどのような取り組みをしてもらえるか、
調べてみて投票の一つの目安にしてみることも必要ではないかと思います。
奨学金問題については、
当事務所では久保田和志弁護士、宮西陽子弁護士もネットワークに加入し、取り組んでいます。
ご相談や講義、ご質問などは当事務所(048-645-2026)までお気軽にご連絡ください。
(事務局長 塚越)